奥井宗夫のむねのおく 2-21
「よみがえる総天然色の列車たち第2章21
蒸気機関車篇<中篇>」のむねのおく(その2)
―話は戻りますが、シゴナナの4次形は、乗務員の方にとっては密閉式キャブってどうだったのかなって。結局、後ろは空いているから、あまり変わらなかったのではと僕は思うんですけど。
奥井 あの罐(C57198)だけ、ちょっと違うって思ったな。石炭もコールバンカーもスッと欠き取りがないし、背が高いしさ。
―え、高いって言うのは?
奥井 あの、石炭の具合や水の具合を見に行くのに、だいぶ登っていかなアカンでしょ。
―あー、なるほど、(テンダの)角が取れてないから。
奥井 そうそう。それで頭をゴチンと打った人、居るんとちゃうかな(笑)。
―とは言え、メカニカルストーカーが付いているわけでもなく。
奥井 そうそうそう。
―あれはC61からですもんね、メカニカルストーカーが付くのは。
奥井 中途半端みたいな、でもないみたいな。まあ、外観的にはまとまっているんだけどもね。
―はい。別にその、シゴナナらしくないかと言えばそうでもない、やっぱり綺麗な形で。
奥井 ボイラも太いしね。
―ボイラ、ちょっと太いんですか!?
奥井 太い。ちょっと太い。
―ほお。パッと見た目に、あまりイメージが変わらなかったので。
奥井 でも、確かに太いわ。あれは。図面見なきゃ判んないけど。
―割と車両ごとに、1両ごとに編集が分かれていて、順に出てくるという形で紹介ができているんですけれど。そういう意味では、つぶさに……。
奥井 罐の違いが分かってよかったね。
―ええ、面白かったなって言う印象があります。だから長呎たっぷりとつないでも全然飽きることが、僕の中ではなかったです。
奥井 僕もやっぱり、思たよりも楽にいったなと。
―はい。
奥井 しかし、まあ、アホみたいによく撮ったもんだな(笑)。
―いや、列車の本数が少ないわけですからね。それなのに……。
奥井 同じ所で撮ってないからね。
―そう、場所を変え場所を変え、撮っていたっていうことですよね、これは。
奥井 はい。
―その後、蒸機が無くなるまでの分は後篇で登場すると思うんですけども、そういう意味では労作だなあと。近鉄特急を撮っているよりも多分、ご苦労の度合いが違うだろうな、と。
奥井 近鉄特急もよう撮ってるでしょ。
―はい。ただ、その運用の数が、多いじゃないですか。それで言うとね、少ない列車をピンポイントの位置で、天気さえよければ撮りに行かれているんじゃないかという気がして。
奥井 あーそういえば、天気だけはよく見とったな。
―ええ。
奥井 まあ、山登っとったから天気だけはよく見とったよ。
―今日は参宮線から、多気を通って、徳和を通って、こちら松阪まで伺ったんですけれど、その途中で、撮影場所を「ここか、ここか」みたいな感じで通って来ました(笑)。
奥井(笑)
―「あ、ここ、線路曲がってるな」って思いながら、気づかなかったなとか、いろんなことを発見しながら来て、すごく楽しかったんです(笑)。
奥井 そうだなあ、僕らでも乗っとって、幸せに思うもんな。
―はい。
奥井 この間から、伊賀上野まで2往復ぐらいしてるけど、やっぱり面白いなあ。
―やっぱり、線路沿いで撮り歩いた者にしか解らないものがありますよね。「あーここで撮った」とか、「ここでどうした」とか。
◆ ◆ ◆
―今回、紀勢本線・参宮線を中心にしているわけなんですが、和歌山線……。
奥井 あれ、良かったよ。
―試しに台本の下書きで貨物の荷物はみかんかな、みたいなことを書いてあったら……。
奥井 みかんです。
―実際にみかんだったということでした。
奥井 ホントに編成が長かったもの、あそこの線は。
―ということは、12月なり、秋からの出荷時期になると編成がぐっと伸びる感じですか、柿とみかんで。
奥井 ええ。
―機関車はというと、シゴハチだったりするんで、とっても北宇智を越えられない……。
奥井 うん。
―あそこの勾配、どれくらいあるんですかね。五条から……。
奥井 25‰、あるんかしら……。
―じゃ、もう立派な勾配ですね。吉野口まで行くと、一段落するわけですか。
奥井 そうそう。
―ですよね。あとは盆地に入ってしまって……。
奥井 そうなんです。五条から先は川沿いやしね。
―はい。
奥井 一遍全線乗りたいんやけど、ちょっと残してますわ。
―あ、そうですか(笑)。言っても電化してしまってからは、105系とかですからね。ロングシートで、何かねえ……。
奥井 落ち着かないねえ。
―落ち着かないですねえ。
奥井 あーいうとこにちょっとでもクロスシートを入れるといいんだけど。
―そうなんです。まだ五条まではね、221系が来るからいいんですけども。紀勢本線もそうですが、ロングシートで103系とかでは。
奥井 今度こっちもキハ25が来て、ロングシートになるでしょ。
―ああ。
奥井 高山線か、あれはロングシートでしょ。キハ25。あれ、かわいそうだよな。
―ま、なるべく特急に乗せようという狙いなのかもしれませんが。
奥井 それにしても、ちょっとひどすぎる。
―せめてキハ11ぐらいでもね、あればまだしも。
奥井 そう。
―それにしても、当時の和歌山線って、客車列車も長大な編成を繋いでるんですよね。ま、どこも昔は客車列車は長大な代わりに、運転本数が少ないというパターンでしたが、それにしても長いですよね。
奥井 長い。
―7両か8両ぐらいつないでいるんですかね、あれ見ていたら。
奥井 だからあれやったら、重連にしても値打ちがありますわな。
―そうですよね。それを牽いているのがシゴハチだっていうのがね。和歌山線の線路の等級でいうと、そうなんでしょうけど。C11が補機で付いて。北宇智のスイッチバックが、つい近年まで、電車になってからも意味なかったんですけど残っていました。ホームの位置を変えて線路をまくってしまえば済む話が、そこの予算が下りなかったんですかね。
奥井 なかったんかな。
―やっと数年前ですよね、確か。
奥井 また、できたら近いうちに、いっぺん行ってきます。
―ええ、是非是非。ロングシートさえ我慢すれば、景色自体はいいですからね。
奥井 うん。
―その、何ということもないのが和歌山線のいいとこですからね。不思議な言い方ですけども、何も期待せずに乗ってみると楽しい線ですから。
奥井 楽しいです。
―見るもの、色々ありますからね。
奥井 はい。
―近鉄と交わったり、南海と交わったり、紀の川は流れているし、和泉山脈は……。あれ、映像は金剛山ですよね。
奥井 そうそうそうそう。
―一瞬、葛城山かどっちかなと思ったけど。
奥井 金剛山です。
―金剛山ですよね。一応、確認はしましたけど、見慣れたのとは反対から見ると、また感じが違いますよね。
奥井 感じが違います、はい。
―神戸からだと、天気が良かったら金剛山も見えているんですけどね。
奥井 見えるでしょうね。
―あんな見上げるような金剛山、しかも河内長野側、富田林側からじゃなくって。いい線だなあって、改めて思いましたね。それと五条駅の雰囲気っていうのは……。
奥井 あー、良かったねえ、あれ。
―いいですよねえ。
奥井 あんだけ撮れているのかなって。しかも上りと下りが一緒になって。
―ええ。何とも言えない良いものが、昔は全国至る所にあって……。
奥井 あったですねえ。地元の人にとっては、貴重な資料やなあと思いました。しかも翌日に五条に降りて、ハチロクが居たもんだから、駅で聞いたら、明日はこの機関車が補機やって言うもんで。
―本来はそこにいる機関車なんですか。
奥井 じゃなくて、向うの機関区に6両のC11と1両だけハチロクが居て、それが共通運用で、だからどっちも使えるんだと。
―なるほど。
奥井 だもんで、翌日、また撮りに行った。その代り、その日は8ミリフィルム代が無かったんで、スチールで撮りました。8ミリではよう撮らなんだけど。
―あっちの機関区というのは、和歌山機関区?
奥井 そこに11両のC11とハチロクが1両。その内の1両を、常時五条に持ってくるんだそうです。
―なるほど。
奥井 だから、翌日はC58とハチロクの重連やったんです。あれ、よかった。
―でも、残念ながら8ミリフィルムではなかった……。
奥井 そう。
◆ ◆ ◆
―その代り8620のさよなら運転、関西本線のものが収録されています。そこで、引退するんじゃない、転属するのにさよなら運転をしたんだそうですが、まずちょっとないぐらいに大々的にやっていますよね。
奥井 あれは「柳生号」を盛り上げるために、ワザとやったんとちゃうかな。
―なるほど。8620そのものというものよりも、転属する機会に折角なんで祭り上げて、イベントにしてしまおうと。重連で。
奥井 12系8両もつないだら、値打ちありますよね。
―ハチロクが重連で、ねえ、前に立ってというのがなかなか、素晴らしい映像で。これ、追いかけていましたね。
奥井 はい、追いかけてました。あれ、誰が運転してくれたんかな。
―結構、追い回しながら撮っていました。
奥井 うまいこと、撮れたでしょ。
―この頃はSLブームになっていましたね。万博以降ぐらいですよね、SLブームって言うのは。
奥井 そうです。
―で、この頃には、いつ頃には全部無くなりますっていうアナウンスはあったのですか?
奥井 無かったね、それは。機関区によって、それぞれの事情で、変わってたでしょ。だから、こっちは最後までDEとかが入ってこなかったもの。だから割に、C58が遅くまでいたんですよね。
―手元に資料がないのですが、確か昭和39年ぐらいにその、無煙化計画で昭和54年に蒸気機関車を廃止にするという目標がたったんですけれど。実際はもっと早く、昭和50年度、50年の12月に室蘭本線の定期の旅客がなくなり、貨物も年内になくなり、あと追分機関区の入換えが3月に無くなったんですよね。だから予定よりも早く無くなったんですけども、今回のフィルムで言うとラスト5年を切っているという時期で、割とSLをみんな目当てに集まるようになってる時期なんですよね。
奥井 そうです。
―ええ、実際に結構な人が亀山機関区に集まっていて、そういう風にハチロクが前に出されて、いわゆる晴れ舞台が用意された感じだったのが、思いを新たにしたところがあります。亀山構内では入換えをしているC50も出て来ますが、何両か居たんですか。
奥井 あそこはね、2両持ちやったと。109と154やったかな。関では154が保存されています。綺麗な罐です。
―SLホテルのあるところですか。
奥井 そうそう。
―あそこもこちらに来るついでに、一回泊まってみようと思っている所のひとつなんですけどね(笑)。このごろSLホテルとか無くなってしまったので。昔はあちこちのあったのですが。
奥井 あそこはちょうどええわ(笑)。僕も泊まりとうて考えてんだけどね。
―近すぎますよ(笑)。
奥井 泊まりに行くんはいいけど、次の日に何しようかと……(笑)。
―帰ってきてもつまらないですし(笑)。
奥井 うん。あそこに泊まって、中仙道を歩きたいんだなあ。草津から順次。
―草津から上に上がって行くんですね。
奥井 そうそう。一応、来年の予定に入れているんですけどね。
―ところで当時、亀山機関区の入換えはC50が全部一手にやっていたのですか。
奥井 ほとんどやっていましたね。割に真面目に。
―この機関車、割りと早目に本線から退いて入換え機に回った機関車でしたよね。全国で見られたんですか、これは。
奥井 割によく、どこでも居ましたね。「蒸気機関車篇」の糸崎でも出てくるでしょ。
―そう、「前篇」で。
奥井 あれにトラ模様の警戒色になってるでしょ。
―トラにしているのは特定の機関区ではなくて、割とどこでもなっていたということですか。
奥井 ねえ。あれ、木曽福島のもなってたしね。でも、トラはトラでもそれぞれに趣が違うんですよね。
―なるほど。当然機関車によって形が違いますから、塗り代が変わってくるというのもありますけれど。
奥井 ま、楽しみましたよ、あれで(笑)。またC11復活しますから、明知鉄道で。
―アッ、そうですか!?
奥井 明知、今狙っています。
―どこのやつをやるんですかね。
奥井 えーと、あれ何番だったかな。JRで直してますから。
(編集注:恵那市内に保存されている2両のC12、74と244をリニア中央新幹線が開業する2027年に合わせて復元して、明知鉄道で走らせる計画がある。現在、明知鉄道明智駅構内にて復元可能かどうかチェックしている段階とか)
―あ、そうですか。
奥井 勾配がエライけれども。
―もしかしたらあれですよ、DCを牽いて、エンジンをふかしながらというパターンかも……。
奥井 そうかもしれないですね。客車、居ないから。
―釜石線のシゴハチみたいに。客車は客車で持ってきたっていいんですけど。
奥井 うん。
「よみがえる総天然色の列車たち第2章21 蒸気機関車篇<中篇>」のむねのおく(その3)へ