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奥井宗夫のむねのおく 2-20

「よみがえる総天然色の列車たち第2章20 蒸気機関車篇<前篇>」のむねのおく(その3)

―そのあと、関西本線の加太越えの映像があります。

奥井 あれだけしか、行きませんでしたけどね。

―いや、あれだけと仰られても、相当たっぷりと撮られていますけど。

奥井 加太の信号場の職員が、僕が平気で草履掛けで行くもんだから、お前蝮に噛まれへんかいなって(笑)。

―(笑)

奥井 みんなが心配してくれて。「もうちょっとしっかりした履物履いて降りなよ」。(笑)

―奥井さんにとっては、地元の庭みたいなところで、気軽に出かけて(笑)。

奥井 いつかは蛇取りに間違えられたこともあって(笑)。

―中在家まではどうやって行かれたんですか。

奥井 自分の単車で走って行って。

―じゃあ、割と広い範囲を、勾配区間の所を縦横無尽にカメラを置かれているのは、バイクだからですか。

奥井 そうそう。125ccの単車に乗って。

―最初の方のフィルムで、加太トンネルのあの……。

奥井 シャッターですか。

―ええ。

奥井 あれ、面白いでしょ(笑)。あれを撮るバカはいないもの(笑)。スチールで撮っても仕方ない(笑)。

―ちゃんと動くところが、横から……。

奥井 横からね。

―私が知っているのは、幕だったはずなのが、金属的な物に……。

奥井 いや、あれは幕ですよ、あれ。

―幕ですか。電動式の……。

奥井 ええ、電動式です。電動の幕です。

―僕の知っているフィルムでは、係員が手動で幕を垂らしていたように思いましたが。

奥井 電動になってましたね。

―しかし蒸機がある限り、電動になってでもそれは必要だったという。

奥井 そうなんですね。あそこに居ると、スゥーと吸い込まれるもん。

―吸い込まれるということは、ピストンのあれと一緒で、列車が入っていくと空気が吸い込まれていくから、煙もまとわり付いて……。

奥井 ええ、そうなんです。

―蓋を閉めることによって一旦煙がその場に残って、列車が行ってから幕を開けて風で煙を吐かせるという仕組みですね。

奥井 そうです。

―ナレーションで言うには秒数が足りないものですから、ここで説明させていただきました。それにしても、加太越えというのは蒸気機関車の、デゴイチの撮影名所ですね。この近辺では。

奥井 あそこしかなかったですね。

           

―紀勢本線では、シゴイチが、貨物を……。

奥井 ええ、もう昭和30年までは、ホントに客車も貨車もシゴイチしか牽いてないですから。

―亀山機関区では、シゴイチの天下だったということですか。

奥井 そうなんです。ただ、1本だけねC10が、参宮線の伊勢市と鳥羽の間だけ1運用あったぐらいです。それがC10で運転していました。松阪にも時々来ていましたね。初午の臨なんかになると、松阪までC10でやって来ましたね。あとはもう全部シゴイチです。

―東海道本線で、時代はかなり古い話になりますが、シゴサン・シゴクと本線用の後継機が出てきて、その辺りから関西本線や紀勢本線に入るようになったんですか?

奥井 そうなんですね。あの、ここら辺はね、昭和8年ぐらいからシゴイチがやってきたらしいですね。

―はああ。

奥井 お召列車を引くためにですね、特にここは早くから入って来たみたいですね。

―結構早い時期に、割と東海道本線から外れて……。

奥井 一部は流れて来ていたみたいです。後は逆に、日本でここが一番多かったでしょう。

―結局、あれですか、使い勝手が良かったんですかね。馴染んで。

奥井 馴染んでいるし、お召には使わなあかんし、先行(先導列車)は要るし。

―ああ、それはありますね。

奥井 ですから、ごく気軽に化粧(している罐)をそのまま使っている。飾りを残して。そういう列車が多かったですね。

―飾りもサイズとかがあるんでしょうね。

奥井 ええ。

―そうするとほかの機関車には使いにくい……。

奥井 まあ、それはあると思います。全部、サイズは違っていたと思います。

―なるほど、じゃ、シゴイチ用の飾りがあるからシゴイチでいこう、みたいなことだったわけですね。シゴイチが元気で動いている限りは。

奥井 そうなんですよね。それと、つけっぱなしのやつも多くありましたからね。

―なるほど、そういうことなんですねえ。

奥井 普段は、真っ黒になっているけれども、磨いたらピカピカになる……(笑)。

― 一度磨けば、たちどころに輝きを取り戻すという……(笑)。

奥井 あの(お別れ会の)シゴイチのフィルムはいいでしょう。素晴らしいですよ。

―シゴイチのカラーフィルムというのは、それこそあまり見たことがないですね。

奥井 しかも仁左衛門さんのテープカット、俳優がそろっているよね。テープ切るのがうまかった!

―はい。(テープを)スパッと!

奥井 サッと持ち上げてね、チャッと置いた(止めた)後、サッと切っている!(笑)さすが千両役者だね!

―素晴らしいですねえ!(テープカットの)前のカットから顔が映っていたからわかりましたが、後姿だけでしたら、誰やこれってなっていたかも。あれだけスパッときれいに切る人……!

奥井 ないない。サっと持ち上げ、スパっと切る!あの間というのは、素人ではちょっとできないね。

―当時、名古屋の御園座かどこかで公演があったんでしょうか。

奥井 いや、たぶん大阪から来てるんでしょうね。

―はあぁ!

奥井 だから、彼としても精一杯の努力をしているんだと思う。

―行きたくて仕方がなかった……(笑)。

奥井 そう(笑)。

―なるほど。別の作品で近鉄18200系ブルーリボン授賞式のフィルムにも、顔出ししているものがありましたけれど。

奥井 うんうん。

―何かそのあとの話があると伺いましたが。

奥井 シゴイチ最後の重連の、「姫路快速」の機関士に花束を渡してくれって言う話になってね。それで僕のカメラ、取上げられたんよ。そのあたりで(笑)。

―「撮影している場合やないから、とにかく花束を渡せ」と(笑)。

奥井 そうそうそうそう。

―「カメラはこちらで預かっておくから」(笑)。

奥井 「地元代表で、お前やれ」と(笑)。

―それで、そのあとの「姫路快速」の重連のフィルムが残っていない(笑)。でも、花束贈呈も仁左衛門さんがやったら良かったんじゃないですか。

奥井 仁左衛門さんは自分の舞台に穴をあけるわけにはいかないから、(テープカットの後)すぐに帰っちゃった(笑)。

―ああ、なるほど(笑)。

奥井 だから、花束を渡す者がいないから、「お前やれ」(笑)。「地元やからお前がやらないかん」ということで、私が渡したんです。

―じゃ、当日花束を渡したのは、仁左衛門さんと奥井さん。

奥井 そうそう(笑)。

―面白い伝説が、またここで一つ増えましたね(笑)。

奥井 そんな馬鹿な事言うてもさ、カメラを取り上げられたらこっちもしかたがない(笑)。

―ホントですよね。本来あったはずの貴重な映像がなかったというのも……(笑)。

奥井 まあ、ちょっと薄暗くなっていたからね。撮れたか撮れなかったか、わからないけれど(笑)。兎に角、カメラは取り上げられてしまったんです(笑)。

―そういうことですか(笑)。

奥井 あのね、あのあと座談会があったんよ。で、そこに出んならんからって言って、強引にそれに引っ張られてしまってさ。その座談会で僕は、C51を全部残せって言うて。16両ほど居ったんかな。そういうたら、国鉄の人がみんな笑うんよね(笑)。16両残しても5年たったら残るのは1台しかないって僕は言い切ったんよ。

―全国に16台、ですか。

奥井 そうそう。みんな僕の冗談やと思うて笑って、国鉄さんも(笑)。絶対1台しか走らんようになるって。で、その後本当にそうなったら、聞きに来たんですよ。「シゴイチ残そうと思うんやけども、残っとんのは新津の、ボイラの中を改造したんしかない」って。そんなんこっちに聞かれてもわからへんやんか(笑)。

―(笑)新津の「ボイラを改造されたやつ」って言うのは?

奥井 ボイラの側面をカットして、中を見せてたんよ。

―あー、展示用ですか。

奥井 そうそう、展示用。教習用というか、あれしか残ってなかったんよ。あの(C51)225、長島温泉に入れるって言うとったね。それが途中でおじゃんになってしまって、全部解体されてしまった。だから、僕はそこまでは責任持たへんよ。全部残せって言うたのに(笑)。シゴイチは車両が1台ずつ違うんよね。だから国鉄でも、2台ずつ組にして全国に配置してたんよ。パーツを確保するために。それと昔の人の方が賢かったね。三重県(亀山機関区、山田=後の伊勢機関区)にも100番、101番、203番、205番、206番などが居って、ある程度番号を揃えていた。あれはメーカーによって寸法が少しずつ違っていたと思うわ。

―ということは、番号が近いものは同じメーカーの車両で、部品の互換性があったと。

奥井 そうですそうです。だから番号を揃えていて、全国を回していたと思う。やっぱり、昔の人の方が偉かったと思うわ。

―蒸機の場合、ホントに寸法が一つ一つ違っていて、現物合わせで直したりしていましたからね。

奥井 だからね、残すんやったら2台か3台残さないかん。まして16台おったら全部残しておく。「全部部品取ってもね、それでも寸法は合うとらへんから」って言うたんですわ。(座談会の様子は)後になって亀山機関区の新聞が何かに載ったんかな。みんなに配ってくれたね。あれ、どっかへやっちゃったわ。

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